着生ランの風と熱放出


 樹木や岩の上に着生してしているランはCAM(Crassulacean Acid Metabolism)といわれる光合成方式で生活を行っています。普通の花などやカタセタム、シクノチェスが行っているC3光合成に比べ、大変効率の悪い光合成方式であることは間違いありません。数日でバルブが太っていく成長をなせるシクノチェスはこの光合成のたまものだと言って良いでしょう。ですが、なぜ着生ラン達は効率の良いC3光合成を行わないのでしょうか??
効率が悪くても、ワケがある
 ほとんどの着生ランが行っているCAM光合成はC3光合成に比べて必要とする水の量はとても少なくて済むので水を確保する上で大変有利になると考えられています。もし、C3光合成がCAM光合成より生育について有利であるならばカタセタムやシクノチェスなどがもっと繁栄していても良いはずです。
 通常の植物達は光合成を行うために葉の気孔を開き、ガス交換を行って大気中から二酸化炭素を取り込んでいます。この際に気孔からは水蒸気として水が放出されると共に、気化熱で過剰な太陽熱を葉から奪い葉の器官が破壊されるのを防いでいます。この行為を行うためには土壌から豊富な水分が供給されることが大前提です。しかしながら、大変効率の良い光合成方式であり、植物は大変早い生育を成し得る事が出来るのです。
 一方、着生ランなどは水の供給にかなり制約のある条件で生活しなければなりません。いわば水を垂れ流しのように使うC3光合成は自殺行為に等しいわけです。そこで、水を大量に使うこの光合成よりも水を使わない光合成方式が求められるわけです。
 CAM光合成を行う植物は昼間の太陽が出て光合成を行う時間帯に気孔を開いてガス交換を行うことはほとんどありません。なぜなら、この時間帯に気孔を開いてしまうと大切な水分が奪われてしまうからです。ですが、気孔を開かないと大気中の二酸化炭素を取り込むことが出来ず、エネルギーを作り出すことが出来ません。そのため、暑い昼間には開かず、涼しくなった夜間に気孔を開いてガス交換を行うことで水分の消費を最小限に押さえ込む事が出来るのです。
 夜間に取り込んだ二酸化炭素は植物内に取り込まれると有機酸として他の物質と結合した形で蓄えられることになります。サボテンやアロエなどの多肉植物もCAM光合成ですので、昼間と夜間のアロエでこの有機酸を体感することが出来ます。昼間のアロエの葉肉は苦く、夜間の葉肉は有機酸の影響で酸っぱく感じるはずです。蓄えられる量は植物の大きさに制限されるわけですから、無尽蔵に大気から二酸化炭素を吸収できるC3植物に比べれば光合成によって固定される二酸化炭素の量は極端に少ないわけです。ここに、着生ランの生育の遅さの理由があります。
生育の遅さ、もう一つの理由
 植物達は葉の気孔を開き、水蒸気を蒸散することによりガス交換と共に気化熱により熱を奪ってもらっています。全ての植物において、直射日光は過剰な熱エネルギーと光エネルギーを持っているので光エネルギーは熱エネルギーに変換して気化熱として過剰なエネルギーを発散しています。もし仮に、葉からの熱エネルギーの放出が全くないとするとおよそ1分で葉の温度は約100℃(葉の厚さ:300μm)にも達するという算出がされています。実際にはそんなことが無いのは葉がエネルギーを放出しているからです。
 前述の通り、着生ランのような水に制限のある植物達は水による過剰エネルギーの放出はすることが出来ません。この様な植物達は気化熱では無く、顕熱という形で熱を放出しています。何やら聞き慣れない日本語が出てきたと思うでしょうが、顕熱とは温度の高い物体の温度を周囲の空気が対流によって奪う熱の事です。身近で言えば、熱いお茶を注いで蓋をしてもやがては冷めてしまいますよね。これが顕熱です。
 着生植物達は(全てではありませんが)この顕熱で熱を発散しています。風によって熱を奪ってもらっています。しかし、十分な熱放出法とは言い難く、どうしても植物本体に過剰な熱が残ってしまいます。この熱が植物にダメージを与えることになるのですが、このダメージから逃れるために植物達は自ら作り出したエネルギーを使って対応しています。それ故、他の植物達が光合成により作り出したエネルギーを成長することに惜しげもなく使えるわけですが、着生植物たちは全てを成長に使えないために生育スピードがどうしても落ちてしまうと考えられています。



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